映画『はいからさんが通る』レビュー「紅緒はいつでも自分の理想」


『はいからさんが通る』の原作は1巻、6巻、7巻の順に読んだ。母が買ったはずのコミックをなくしたといい、途中の巻がなく、あとで中古で購入した。イメージはお転婆、職業婦人。大和和紀画業50周年を記念して製作された『はいからさんが通る 前編 〜紅緒、花の17歳〜』を見て、どれだけ大きく影響を受けていたのか、改めて思い知らされた。なぜか不意に食べたくなる「つくね」「あんみつ」、破天荒な行動、茶すら入れられない不器用……、すべて「紅緒」のキャラクターだった。

環の影響も大きい。彼女のように自立して生きたいと思った。「殿方に選ばれるのではなく、私達が殿方を選ぶのです」。男女雇用均等法施行前の70年代に、少女漫画とはいえ、世の中に訴えた大和和紀はかなり先進的だ。

いま見返すと、蘭丸は「男の娘」の先取りだった。そして、史実を組み込んだクライマックスシーンは圧巻。映画は、原作のセリフを基本的に忠実に再現し、尺をできるだけ短くして圧縮し、前編は全7巻のコミック中盤まで進んだ。

宮野真守で変わる少尉のイメージ

もともとのイメージと、声優のイメージが違っていたのは、主役の二人。紅緒は想定されるパターンの一つだったが、伊集院少尉はまったく違い、人気声優・宮野真守の起用によって、映画版ならではの新たな少尉が誕生した。少尉は、桜蘭高校ホスト部の環だった。おばあさまの「忍さん」の呼び方から逆算して生まれたようだ。

原作を読んでイメージしていた少尉役の声優は関俊彦さん。もっと太く、しっかりとした大人だった。宮野真守さんだと「王子様感」がアップした。

原作を知らない人ほど、新鮮に感じたに違いない。そして、紅緒、蘭丸、冬星、鬼島軍曹は、それまでの少女漫画・少年マンガにはないキャラクター造形で、この作品がなければ、日本のアニメ・漫画のキャラクターの幅は確実に狭かっただろう。紅緒にピアノの才能を与えると、「のだめカンタービレ」の主人公・のだめになる。千秋は、冬星と蘭丸の女性らしい部分をかけ合わせたようなキャラクターだ。

4人の主要男性キャラで誰が好きか、と突き詰めて考えると、蘭丸だと思い至った。そして、運良く特典としてもらったポストカードは蘭丸。後編も、前編同様、原作準拠だと思われる。

映画『はいからさんが通る』入場特典の蘭丸
映画『はいからさんが通る』入場特典の蘭丸

「なぜいま?」という疑問はあるものの、諸事情でアニメ化したテレビ版を打ち切らざるを得なかった当時の関係者から大和和紀先生への遅すぎたお詫びなのだろう。原作掲載時から、すでに40年近く経っている。異なる良さをもつ2人の王子様ボイスが堪能できる濃密な時間は、今後十数年、色褪せず、むしろ、輝き続けるだろう。