スマートフォンの普及と日本の歪み


 2年前の2011年10月、ネット上の書き込みをきっかけに、<「iPhone 4S」キャリア対決、ソフトバンク51.7%、au48.3%でほぼ互角のスタート>という記事を執筆した。ほぼ半々という数字を見てから書いた。続報として、翌週、<「iPhone 4S」キャリア対決、発売2週目はauがシェア59.5%でソフトバンクを引き離す>を執筆し、何とかその週のうちに掲載した。特に、1本目の記事は、誕生日返上で書いたため、思い入れが深い。「iPhone 4s」の最終的な累計販売台数は、ソフトバンクモバイルのほうがはるかに多く、auのシェア上昇は、一時的な現象だった。

 2012年は、前年に比べ、発売時期が約1か月早まり、慌ただしく、いろいろな記事を書いた。記憶が曖昧で、はっきりと覚えていない。この個人ブログも、何も更新していない。Twilogによると、<「iPhone 5」キャリア対決、発売1週目はシェア63.2%でソフトバンクが制する>は、2012年9月27日の午前中に書いたようだ。記事掲載後、下記のようなコメントをツイートしていた。1社独占体制が崩れ、2キャリアが取り扱うようになって以来、どちらか一方に肩入れするiPhoneユーザー同士のネット上の言い争いが激しくなり、辟易していたからだ。

 「iPhone 5」の発売を機に、ソフトバンクモバイルとKDDI(au)は、LTEサービスを前倒しでスタートし、振り返ると、10月末までの最初の1か月は混沌の極みだった。2011年10月発売の「iPhone 4S」と2012年9月発売の「iPhone5」と、2013年9月発売の「iPhone 5s」の当初1か月半の国内での販売台数を比較すると、「iPhone 5」が最も少ないだろう。世界的に品薄だった上、LTEネットワークの整備がある程度終わるまで、キャリア側として、あまり売りたくなかったのではないかと思われる。

 一部のユーザーがつながりやすいと高く評価したauに関しては、皮肉にも、800MHz帯に対応した「iPhone 5s/5c」が発売されたことで、「iPhone 5」のサービスエリアの狭さ、電波状況の悪さが浮き彫りになってしまった。「LTEと3Gの落差が激しく、いったん3Gに落ちると、再起動しないとLTEに復帰しない」という欠点を、はっきりと指摘すればよかったと反省している。ただ、この症状は、2012年11月中旬以降、頻繁に発生するようになり、当初はそこまでひどくなかった。個体差やキャリアアップデート、ユーザー数の増加など、要因は複合的なものと考えられ、PRLアップデートを実行すれば改善した可能性も高い。auの「iPhone 5」は、2013年10月時点でまだ在庫があり、しばらく売れ続けそうだ。「安さ」は最大の強み。「MNP一括0円+高額キャッシュバック」に惹かれる一般人から入手した端末を中古で販売する目的の転売屋まで、購入者層は幅広く、指名買いするケースもあるらしい。

岐路に立つスマートフォン 普及率の低さは日本の構造的歪みそのもの

 2010年秋以降、キャリアがスマートフォン中心のラインアップに切り替え(キャリアショップ・携帯電話専門的を含めた全国的な切り替えは、2011年夏以降)、スマートフォン時代が到来しても、安ければ安いほうがいい、というニーズは根強い。黒電話(固定電話)に始まり、携帯電話普及初期の0円端末、今の「MNPなら実質負担額0円」に至るまで、どうも「電話機」にお金を余分に払いたくないという考えの人が多いようだ。スマートフォンは、単なる「電話機」ではなく、手のひらサイズの小型パソコン。性能を考えると、0円はありえない。情報収集の意欲や向上心のない人、連絡用の電話しかしない人は、ベーシックな機能を備えた従来型携帯電話(フィーチャーフォン)で十分だと考える。通勤・通学時の移動時間や待ち時間が少ない人は、自宅のパソコンで間に合うため、スマートフォンを携帯する必要性は少ない。逆に、移動時間が長かったり、何かと待ち時間が多かったりする人は、スマートフォンより、iPadのような画面サイズの大きい通信機能付きタブレットのほうが便利。こうした理由から、一定数は、スマートフォンを利用しない。

 iPhoneをはじめとするスマートフォン・通信機能付きタブレットのメリットは、いつでもどこでもインターネットに接続し、情報収集・情報発信、データ記録・蓄積ができること。実際は、2chまとめサイトの閲覧や無料動画の視聴など、受動的な利用が多いとはいえ、テレビに比べると、だいぶ主体的・能動的であり、匿名ならば、コメント投稿など、情報発信のハードルも低い。スマートフォンの普及は、当初、アナログ放送終了・地上デジタル放送移行がきっかけになると思われていた、情報のデジタル化・双方向化の最大の推進役となっている。

 今年は、新しいiPhoneの販売動向について、これまでに計3本の記事を執筆した。1本目<iPhoneを巡って3キャリアが激突! 発売1週目はソフトバンクがトップ!>は、発売後3日目までのデータをまとめた速報、2本目<新iPhoneキャリア対決 ソフトバンクの優勢続く、シェア4割超>は、その続報として、モデル・キャリアごとの容量別販売台数構成比を追加した。キャリアによって傾向が異なり、興味深い。「ドコモiPhone」の購入者は、大容量モデルを求めるヘビーユーザー・リッチ層が多いようだ。

 3本目<新iPhoneにみるスマートフォンの差異化のポイント 「5s」と「5c」の違いはカメラにあり!>では、あえてキャリア別シェアには触れていない。タイトルも、後半のレビューの内容に沿ったものにした(反応を見る限り、失敗だったかもしれない)。別のタイトル案は、「iPhoneのシェア急上昇 OSの進化がハードの製品寿命を延ばす」「シェア約8割――売れまくるiPhone、その強みと弱み 2モデル展開は失敗?」。キャリアの想定とは裏腹に、初心者をターゲットとした廉価版「iPhone 5c」は売れていない。特にドコモは、今夏の「ツートップ」とは異なる傾向に、頭を抱えているかもしれない。ドコモユーザーの大多数は、iPhoneではなく、安定して使えるドコモのケータイ(スマートフォン)を望んでいるらしい。少数のアップル好きは、当然、上位機種を求める。まだ結論を下すのは早計だが、アプローチ方法のギャップは否めない。

 iPhone 5s/5cの発売以来、アップル=iPhoneのスマートフォン全体の総販売台数に占めるシェアは7割超。発売直後の瞬間風速とはいえ、その数字は驚異的だ。ほとんどiPhoneしか売れていないといってもいい。昨年の同時期に比べ、iPhone全体の販売台数も増えている。しかし、最近の店頭の様子を見る限り、課せられたノルマを達成するために、キャリアがさまざまなキャンペーンを展開し、「安さ」や「イメージ」で興味を持たせ、学生から中高年、デジタルに関心をもつシニアまでの幅広い層に、購入させる手法は行き詰まりつつあるように思える。

 信頼性はやや疑問があるが、「日本はスマートフォンの普及率が低い」という調査結果がいくつか公表されている。おそらく今後も、他の先進国・新興国に比べ、普及率が低い状態が続くだろう。高齢化と、地域・所属するグループによる「分断」が進み、情報に対する感度の差とも言い換えられる「デジタルデバイド」が顕著な日本では、いくら契約数No.1のドコモが取り扱うようになっても、もはや普及の余地は、ほとんど残っていないのではないだろうか。絶対的な収入の不足と、探究心・向上心の差は埋めがたく、経済格差・情報格差は、以前はパソコン、今はスマートフォンが中心となったインターネット端末と、それらを活用したITサービスの普及を阻害する。このまま、端末と自社の有料サービスの押し付けを中心とした安売り合戦を続けるようなら、3キャリアが同じiPhoneを発売した2013年9月20日は、スマートフォンの普及がほぼ上限に達し、真のIT革命が達成できなくなった「終わりの始まりの日」になってしまうかもしれない。

 スマートフォンのさらなる普及には、個人差の大きい探求心・向上心の喚起が必要。一方、あまり能動的ではなく、自分の考えを持たない人がスマートフォンを手にした弊害も目立ち始めている。情報の信頼性と受容については、改めてまとめたい。

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