ネットの声から生まれた「ドコモiPhone」は、希望か失望か


 噂通り、新モデル「iPhone 5s/5c」から、ドコモもiPhoneを販売する。今年5月、夏モデルの発表とともに打ち出した「ツートップ戦略」を総括する前に、iPhoneモードになってしまった。データを追いかける身としては、非常に残念だ。

 確固たる根拠はないが、ドコモは、「ツートップ」の2機種の初動を見て、iPhone導入を決断したと推測する。少なくとも、5月の時点では、サムスンと強力なタッグを組み、AndroidとTizenの二本立ててプッシュしていく方針だったはず。しかし、MNP獲得のためのキラー端末と見立てていた「GALAXY S4 SC-04E」の販売台数が想定を大幅に下回り、価格の安い「Xperia A SO-04E」に偏るという結果を受け、起死回生策としてアップルに歩み寄ったようだ。

 「GALAXY S4 SC-04E」は、決して売れ行き不振ではない。販売台数は、7月末の時点で55万台以上に達し、最終的な累計販売台数はもっと多くなるだろう。とはいえ、過去のGALAXYシリーズや「Xperia A SO-04E」に比べると少ない。期待値が高かっただけに、GALAXYブランド全体のイメージダウンは免れない。

 ドコモがiPhone導入を決断した理由は、今年1月以降の伸び悩み(前年割れ)にあるだろう。断言してもいい。金銭面でかなりおトクな「学割」キャンペーンを実施したにも関わらず、2013年3月のスマートフォンの販売台数は、前年を大幅に下回った。その要因をリサーチしていくうちに、危機感を覚えたに違いない。

 2010年秋から約2年半の間に、学生~新社会人を中心に、急ピッチでスマートフォンが普及していった。2012年秋頃から、ドコモでも、スマートフォンからスマートフォンへの買い替えが増えてきたが、内蔵メモリの少ないAndroid搭載スマートフォンを使っていたユーザーの中には、使い勝手の悪さに失望し、他キャリアのiPhoneに移りたいと思っている人が少なくないと気づいたのだろう。また、オススメ機種を特別価格で提供する「ツートップ戦略」を打ち出したところ、実質負担額5000円という破格の安値ですら、興味を持たず、移行しようとしないiモードケータイユーザーがいると判明した。iPhoneと同じiOSを搭載したiPod touchやiPadを利用し、「ドコモiPhone」が登場するまで手持ちのケータイを使い続けると心に決めた、声の大きい少数の人たち(日経新聞の記者や個人株主など)は、事あるごとにドコモの経営方針を批判し、ネットユーザーも同調する。

 ドコモ自身がiPhoneを取り扱えば、iPhoneを目的としたMNPの阻止と、既存のiモードケータイユーザーのスマートフォンへの移行の両方を達成できる。決断のタイミングは、今しかなかった。漁夫の利を得た真の勝利者は、アップル。マスメディアと、自然発生するソーシャルメディアの力を利用し、5年の年月をかけ、ついに契約数No.1キャリアのドコモを屈服させ、どのキャリアでも、望めばiPhoneを利用できる環境を整えた。これは驚くべき偉業だ。

 AndroidとiOSの違いは、アカウントとサービス・機種の紐付け。iOSは基本的にすべてアカウント(Apple ID)で管理するため、機種間のデータ移行・引き継ぎはスムーズ。ビジネスの存続とスティーブ・ジョブズが掲げた「デジタルライフスタイル」の実現のため、アップルは、iOSデバイスを通じ、一生涯付き合えるサービスを提供しようと目論んでいる。対してAndroidは、アプリこそアカウントで管理するものの、他の機能は機種ごとに異なり、その多様性・自由度が最大の特徴とも、欠点ともなっている。「Google Reader」や「Googleデスクトップ」の終了が示すように、Googleは、アップルほど、サービスの永続性に重点を置いていない。

5年間、言い続けていた夢はついに現実になったが……

 2年前、ソフトバンクモバイルの1社独占販売でなくなった時から、やがて主要3キャリアすべてが取り扱う状況になることは既定路線だったかもしれない。3GからLTE、3.5インチから4.0インチへの移行を挟み、中途半端な2社体制はわずか2年で終わった。ドコモが参入すれば、当然、母数となる契約者数が多いドコモが優勢となり、ソフトバンクの躍進は終わる……と思ったが、わからなくなってきた。

 ドコモが発表したiPhoneの端末価格・料金プランと対応サービスは、残念な内容だった。他キャリアとは異なり、製品ページに料金プランしか掲載せず、端末代は問い合わせないと教えてくれない(他のキャリアもわかりにくいが、探せばわかる)。インフォメーションセンターに問い合わせて聞き出した端末代は、「iPhone 5s」の場合、容量が違っても同じ金額という、一般的な常識からはずれた設定だった。熱心なiPhoneファンは、2年ごとではなく、モデルチェンジごとに買い替える。露骨な「2年縛り」は納得できない。また、9月20日の発売日の時点で、spモードメールに対応せず、しばらくは不完全な状態で使わざるを得ない。2年前のKDDI同様、見切り発車でのスタートだ。

 ドコモのユーザーアンケートの自由回答欄に「ノーサポートでいいからiPhoneを取り扱って欲しい」と書いた。その時イメージした状態は、BlackBerryのように、店の片隅に他の機種と同列で展示し、「欲しい人だけが買う」というものだった。9月15日の時点では、まだ店頭は切り替わっていなかったが、ウェブサイトを見る限り、9月20日以降、ドコモショップの店内や家電量販店のドコモコーナーは、iPhoneオンリーになりそうだ。価格設定もプランも宣伝も、望んだ状態とは少し違う。ドコモはドコモらしく、iモードケータイから、一時期、「ガラスマ」と呼ばれた、ワンセグ・おサイフケータイ・赤外線に対応したAndroid搭載スマートフォンへと続いた独自の路線を貫いて欲しかった。

 いざ現実になると、3キャリアによる強力なiPhoneプッシュは、他のメーカーをないがしろにした偏ったものに見える。キャリア間も、料金プランやキャンペーン、ネットワークの整備状況などに対し、ユーザー不在のまま、過剰に牽制し合っているように思える。どうしてこうなってしまったのか。一部のドコモユーザーとメディア関係者が強く望み、ネットを通じて拡大し、ついに一企業を動かした「ドコモiPhone」は、ずっと夢のままでよかったかもしれない。

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