「ドコモiPhone」に関するつれづれ(正式発表前)


 従来のマスメディア(新聞・雑誌・テレビ)は、なぜか、特定の新カテゴリに飛びつき、大きく持ち上げる。しかし、一般に普及せず、フェードアウトしていくことが多い。「メディアが人為的に作ったブーム」は短期間で終わる。初音ミク・ボーカロイドのように、本当に自然発生したものや、実務上、便利なものだけが残り、その他の多くのコンテンツ・商品は消えていく。

 パソコンは、1980年代から20年以上かかり、ようやく一般化した。後押ししたのは、わかりやすいインターフェイスを持った「Windows 95」、デザイン的にインパクトがあった「iMac」、そして孫正義社長がそれまでの常識を変える低価格で参入した「ADSL」だ。その後、ADSLは、より高速な光ファイバー(FTTH)、CATVインターネットに置き換わり、価格競争が沈静化したため、料金は高止まりした。代わりに、フラット型パケット定額サービスを契約すれば、いつでもどこでもインターネットを利用できるスマートフォンが普及した。インターネットにアクセスするデバイスの主役は、パソコンからスマートフォン・タブレット端末に切り替わりつつある。最近、ネット上で話題になるさまざまな事件は、従来のパソコンから入った層と、ガラケーからスマートフォンに切り替え、スマートフォンで初めて「世界とつながった制約のない本当のインターネット」を知った層との意識の乖離が生み出している気がする。

 日本にiPhoneが上陸する以前も、「スマートフォン」というカテゴリの製品は存在していた。ただ、PHS端末(ウィルコムの「W-ZERO3」シリーズ)だったため、ユーザーは限られていた。当時も新聞などのマスメディアは、スマートフォンを持ち上げ、ITニュースサイトは、「W-ZERO3」本体のガジェットとしての魅力を紹介していた。「iPhone 3G」発売時、マスメディアはこぞって大きく取り上げ、「日本では売れない」と断定している人も多かったと記憶している。発売直後はかなり売れ、その後もそこそこ売れていた。さらに、ソフトバンクモバイルが展開したキャンペーンをきっかけに、自然発生的に人気が高まっていった。

 「iPhone 3GS」がロングセラーとなり、もはやヒット商品として無視できない存在になりつつあった頃、マスメディアから頻繁に問い合わせがあった。記事や問い合わせの内容から、「日本だけスマートフォンが普及せず、世界のトレンドと乖離しては先進国として問題だ。しかし、アップルのiPhoneが独占する状態は好ましくない」と主張したいように感じた。今も基本的に変わっていない。「日の丸○○」という言葉に象徴される、日本メーカー至上主義は、どこから生まれてくるのだろうか? 理解に苦しむ。

 スマートフォンに関する報道は、昔から現在まで、ずっと矛盾に満ちている。世界市場で高いシェアを持つサムスンの製品があまり売れていないことや、国内契約数No.1の携帯電話事業者のドコモが世界的に人気のアップルのiPhoneを取り扱わないことは、日本の閉鎖性の表れであり、是正しなくてはならないーそうした謎の使命感にかられ、どこまでが事実で、どこまでが願望なのかわからない内容の記事が頻繁に掲載された。

 その一方で、国内メーカーの低迷を嘆き、新しい技術を開発したり、少し特徴のある製品を発売したりすると、「日の丸スマホの逆襲」と銘打ち、大々的に取り上げた。しかし、初代「らくらくスマートフォン」と、最近の「Xperia」の一部機種を除き、成功したとは言いがたい。新聞や通信社の記事では、通常、NEC・パナソニック・ソニーなどと、メーカー名は省略され、ソニエリ時代の「Xperia」は海外メーカー製、今の「エクスペリア」は国内メーカー製の扱いらしい。ユーザーレベルでも、「Xperia」は、ソニー製品と認識している人もいるようだ。

 正式発表ではない、一連の「ドコモ、iPhone販売へ」という報道は、日本でのシェアをさらに高めたいアップルの思惑と、日本のマスメディアが煽る危機感、PV至上主義が重なった結果だろう。キャリアごとのスマートフォンの販売台数前年同月比を指標とすると、今年1月以降、ドコモは「一人負け」が続いていた。新たに「ツートップ戦略」を打ち出し、広告を大量投下しても、5月・6月のわずか2か月間しかプラスに転じなかった。かくなる上は、iPhoneを導入するしかない、と経営陣が考えてもおかしくない。もし本当に、今年発表する新しいiPhoneからドコモも取り扱うならば、アップルの長年の地道な広報活動を賞賛するべきだろう。頑なに拒否していたドコモをついに動かしたからだ。逆に、今回も見送るようなら、ますますメディアやユーザーから、ドコモに対する批難の声が増えるだろう。どちらに転んでもアップルにはプラスだ。

 「携帯電話を再定義する」という触れ込み登場したiPhone。日本でも、2008年7月11日の「iPhone 3G」の発売からわずか5年で、スマートフォン本体とインターネットを取り巻く環境は大きく変わった。情報共有・拡散ツールとしてTwitter・Facebookが普及し、2ch本体ではなく、「2chまとめ」など、まとめサイトが影響力を持つようになった。私は使っていないが、今の学生は、音声通話・キャリアメールではなく、キャリアを気にせず使えるLINEやSMSをメインに使っているらしい。ソーシャルメディアを通じて拡散される一部の著名人と、匿名の少数の人の書き込み・意見が世論を左右する。インターネットを身内(友人・家族)の間でしか使っていない人は、そうした少数派の意見や、テレビ・まとめサイトの情報を鵜呑みにし、自分の身内の常識にしてしまう。

 2013年9月7日現在、日本でもっとも多く売れたスマートフォンは「iPhone 5」だ。ただし、キャリアごとに別機種とみなすと、歴代1位はソフトバンクモバイルの「iPhone 4」になる。取り扱いキャリアが増えると、トータルの販売台数は増えるが、キャリアあたりの販売台数は減ってしまう。また、「iPhone 5S(仮)」と廉価版「iPhone 5C(仮)」の2機種を併売すると、人気が分散してしまい、「iPhone 5」の累計販売台数は超えられないだろう。「ドコモのツートップ」に対抗するため、昨年より早く投げ売りを始めたため、たとえ1機種しか販売しなかったとしても、超えるべきハードルは高い。iPhoneのライバルは、常に過去のiPhoneだ。

 満を持して登場する(かもしれない)「ドコモiPhone」は、すでに低迷している国内メーカーの撤退・縮小に加え、良くも悪くもトレンドを生み出してきた総合インターネット企業・ソフトバンクの躍進の終わりにつながりかねない。何度もユーザーアンケートで要望してきたドコモユーザーとしては、iPhoneの取り扱い開始はうれしい。地元の駅ビルの来訪者アンケートに、入れて欲しいテナントとして、無印良品・スターバックス・RF1を挙げ、数年後に実現した時と同じ感動がある。しかし、いざ実現するとなると、複雑な思いだ。勝利者は、ドコモやユーザーではなく、アップル。ついに主要3キャリアすべてを手中に収め、日本は、世界で一番iPhoneのシェアの高い国になるに違いない。しかし、やがて買い替えが中心になり、事実上、アップルのiPodとソニーのウォークマンしか選択肢がない携帯オーディオプレーヤーと同じ状況になるだろう。

 デジタル家電に限らず、メディアが無邪気に競争を煽った結果、多くの分野で大手企業による寡占化が進んでいる。中には、高いシェアを持ちながら、採算性の悪化や今後の市場縮小を理由に撤退するケースもある。矛盾した報道を続けるマスメディア関係者や、より安く、よりいいモノを望むユーザーは、無自覚のまま、デフレに加担しているのかもしれない。

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